#79 ANSNAM Arbus shirt オーダーメイド

Nov 8, 2017

あの時にそれは話をしながらに、なんとなく方向が定まってきて、イメージが寄せては返し、影が浮かんできては、消えていき。
その辺りでまず僕は、カーテンの向こうの、試着スペースの奥のあの山積みの生地のジェンガを崩しに行き、その何かの為の波長に合うもの、もしくはそれに合わずして意図して逆のもの。
でまたそれらを持って、お客さんの元へ戻る。その時の僕とお客さんの気分と、その生地とその用尺と、発芽していたアイデアを殺すのか否、生かすのか。そしてそれが成った時に、共に震えて喜び合えるのか。
映画「ノーカントリー」ハビエル=バルデムシリアスな異常性、またはダイアン=アーバスやロジャー=バレンの作品のようなダスティで、クリーピーでフリーキーな、且つユーモラスなラブリーさも兼ねる。そんなイメージ。
で今回のこれは、ワークシャツブルゾン。異常なまでにバランスを歪め、膨張させる。生地は僕が昔に見つけたイタリアの、ダブルフェイスの綾目ウール。軽くてふくらみがあり、柔らかいドレープを出す。生地表面に顔料スプレーによる色ムラが激しい陰影を燻り出す。
縫製はチーバ君が担当。微妙に色調の異なる糸を選び、ステッチの運針はやや細かく几帳面に。随所に手縫いを施し、ただのカジュアルとは一線を画すための、小さな一歩を積み重ねていく。時にそれは、ものに依って、不要だったり必要であったり。で今回は、必要で必然。
最後に添えたのは、チーバ君の私物から、絶妙に変形している貝ボタンは猫目の手彫り?のアンティークのやつ。
で、出来上がったのがこれ。
これと同じものは作れないけど、この生地はあと一人分くらいあるから、気になる人は触ってみて。そして他にもたくさんいい生地をジェンガしてるので、覗いてみてほしい。
まだ、僕もあなたも、誰も見たことないやつを、ここだけの、現在に実在しない服が欲しい人だけ来て。来てちょ。